人が最も身体的に成長する時期は、いつだと思いますか?

今このコラムをお読みの方の中には、思春期の頃やたら背が伸びた、という方もいらっしゃるかもしれません。子育て経験のある方の中には、いや、産まれてすぐの赤ちゃんの成長の方が著しい、とおっしゃる方もいるかもしれません。

人の一生は母体から生まれてきてから、と考えると、一生のうちでもっとも成長する時期は、乳幼児期(0歳~6歳頃)です。乳幼児期は、特に神経系の発育発達が顕著です。下にあるグラフ「スキャモンの発育発達曲線をご覧ください。横軸が年齢で0歳から20歳まで、縦軸が成長の度合いを示しており、20歳の時期の成長を100%として0%から200%が刻まれています。このグラフ中には4つの曲線のそれぞれが身体の部位別の成長度合いを示していますが、着目していただきたいのが、神経系の発育発達の度合いを示す神経系型と呼ばれる曲線です。ご覧のとおり5歳頃までに脳は成人の80%程度まで成長し、12歳頃までに成人とほぼ同じ大きさまでに発達します。この時期にバラエティに富んだ適切な運動をおこなうことで、神経系の発達が促されます。

この6歳頃の時期は実はプレゴールデンエイジと呼ばれ、運動能力、とくに巧緻性(身体の器用さ)と言われる細かな身体のコントロールや、身体の多様な動かし方を学ぶのに最も適している時期、運動技能の臨界期と言われています。さらに、12歳頃の時期はゴールデンエイジと呼ばれ、その後の運動能力の発達に資する基礎的な運動能力向上の最適な時期と言われています。そのため、多様な身体運動を経験することが望ましいのです。

そこで、カポエイラで習得が期待できる体力要素についてお話いたします。

カポエイラは伝統的なブラジル格闘技で、キックやよけ動作、アクロバティックな動き等を中心に、相手と攻防を展開してきます。しかし、他の一般的な格闘技と最も異なる点は、楽器による生演奏に合わせながら動くという「リズムが伴う点です。楽器演奏だけでなく、周囲の人々による合唱や手拍子も同時におこなわれます。そのため、キックやよけ動作をおこなう際には、常に「ジンガginga」と呼ばれる左右に揺れるようなステップをリズミカルにくり返します。

この「ジンガginga」は、ポルトガル語で「よちよち歩き、千鳥足」という意味で、肩幅より広めに開いて膝を軽く曲げた状態で、右脚を引く、左脚を引く、これを交互に繰り返していきます。筋力トレーニングのランジ(主に大腿四頭筋と大臀筋に刺激を与える動作)を、片脚を前に踏み出すのではなく後ろに引く動きと表現した方が想像しやすいかもしれません。この「ジンガginga」を常に踏みながら相手と駆け引きをして攻防を展開します。したがって、左右に揺れる上半身を機敏かつ的確にコントロールしていく必要があり、結果として体幹も必然的に鍛えられます。人は日常生活で歩く、走るなど、前後の動きは非常に慣れ親しんでいます。しかしこの「ジンガgingaのようなサイドステップを伴い左右に上体が大きく振れるような動きというのは日常生活ではなかなかおこなわれません。実際に、小学2~3年生のこどもたちの鬼ごっこゲーム等をみてみても、左右に動く要素を含んでいる方向転換、つまりぐっと足を踏み込んで反対方向に移動するといった動きは、得意ではない子ともが少なくありません。しかし、カポエイラの「ジンガgingaは、左右に上体が大きく振れる非日常的な動きを反復するため、ダイレクトに筋力強化につながります。さらには土台となる下半身の強化のみならず、上半身の体幹を生かしたいわゆる「体の締め」を伴う巧緻性の向上に寄与するのです。

また、カポエイラでは常に相手と対峙して動き続けるという特徴があります。自分のタイミングではなく相手を注視してタイミングを見極め、次の動きの展開をどんどん考えながら繰り出していかなければなりません。それを繰り返す過程で、相手の動きを的確に判断し、機転を利かせて正確に動くという敏捷性(速さと正確さ)が高められていきます。もちろんカポエイラでは、逆立ち等の手を床につく動きも多用されます。したがって、定期的にカポエイラをすることによって、ジンガによる下半身ならびに体幹の強化、独特な技による肩、腕、背中の筋力強化、そして、巧緻性、敏捷性の高まりが期待できるのです。


プレゴールデンエイジ、ゴールデンエイジの時期に習得したこうした身体能力は、そのほかの多様なスポーツ競技におけるスキル獲得の基礎にもなります。現在、どの競技に絞るかどうか迷っているという親御さんも、まずは身体能力の向上という観点から、カポエイラを習わせてみるのはいかがでしょうか。幼児期・児童期の身体経験は「身体知」として深く身体に刻み込まれていきますので、プレゴールデンエイジ、ゴールデンエイジの最も運動技能の習得に適した時期に、カポエイラを通じて、ぜひお子様に多様な運動経験をさせてあげてください。きっと、将来的にスポーツや運動を通してお子様も素晴らしい経験をして成長されていくことと思います。

2017年8月29日

コラム 子どもの発育発達とカポエイラ

Abada-Capoeira 徳島支部代表 細谷洋子(四国大学講師/博士(スポーツ科学))